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旭川地方裁判所 昭和30年(行)1号 判決

原告 倉島邦

被告 旭川市監査委員・旭川市

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告旭川市が原告に対し別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という)の賃貸、売渡、分筆及び所有権移転登記手続を拒否している事実につき、原告が昭和二十九年十二月二十八日被告旭川市監査委員両名に監査請求をしたのに対し、右両被告より昭和三十年一月二十日原告宛なされた違法不当行為は認められない旨の通知はこれを取消す。被告旭川市監査委員両名は被告旭川市に対し本件土地の違法不当な使用及び賃貸等の拒否処分禁止に関する措置を講ずべきことを請求しなければならない。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は旭川市の住民であるが、被告旭川市所有の本件土地が塵芥汚物捨場或は他人の無断使用畑地として放置されていたので、昭和二十三年から三年間にわたり毎年被告旭川市に対し右土地の賃貸借契約の申込をなした。しかるに、被告旭川市は正当の理由なくして違法又は不当に右申込を拒否してきた。

二、被告旭川市は昭和二十八年三月頃から本件土地を含むその隣接市有宅地を一坪金二千五百円の割合で売却することとなり、右土地の従来の賃借人にはその優先特買権を与えることとした。

三、原告の本件土地の賃借申込に対する被告旭川市の拒否は正当の理由に基くものではないから、原告は右土地の賃貸を受ける権利を有しており、従つて又右土地の優先特買権をも有している。そこで原告はさきに被告旭川市に対し本件土地の賃貸と売渡を請求したが、被告旭川市はこれに応じないので、昭和二十九年十二月二十八日被告旭川市監査委員両名に対し本件土地の違法若しくは不当な使用と違法若しくは不当な賃貸拒絶の事実につき監査の請求をなしたところ、右両被告は昭和三十年一月二十日監査の結果請求にかかる違法若しくは不当な処分は認められない旨、原告に通知した。

四、よつて原告は地方自治法第二百四十三条の二に基き、被告旭川市監査委員両名のなした右通知行為の取消及び右両被告が被告旭川市に対し本件土地の違法又は不当な使用及び賃貸等拒否の禁止とこれに関する措置を講ずることを請求することを求めると述べた。

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、

一、原告主張の事実中、被告旭川市が本件土地の賃借及び買受の申込を正当の理由なく拒否しているとの点は否認するが、その余の事実は全部認める。

二、本件土地が塵芥汚物捨場として放置されていたとしても、被告旭川市としてはその賃借申出を承諾する義務はなく、それに応じなかつたとしても違法又は不当ということはできない。

三、又本件土地を含む隣接地は被告旭川市が昭和二十三年一月建設省に対し旭川都市計画街路広場としてその指定を申請し、同年建設省告示第五十六号を以て都市計画街路広場と指定された。しかして原告がなした本件土地の賃借申込はいずれも右申請中又は指定後になされたものであり、被告旭川市としては右申込を承諾する余地はなく、その拒否は正当の理由のあるものである。

四、従つて原告は本件土地につき賃借権を有していないのであるから、本件土地の優先特買権は勿論本件土地の分筆及び所有権移転登記手続を求める権利をも有しない。

五、右のとおり被告旭川市の本件土地の賃貸、売渡等の拒否には違法又は不当な点は存存しないが、そもそも地方自治法第二百四十三条の二第一項により普通地方公共団体の住民が監査委員に請求できるのは、違法若しくは不当な行為があつた職員に対する当該行為自体の制限若しくは禁止、原状回復、又は将来における同一行為若しくは類似行為の制限又は禁止である。監査委員は、原告の主張の如く市有財産を新たに賃貸し又は売買する等新たな処分をなすことを職員に請求する権限はなく、住民は監査委員にかような措置を講ずべきことを請求することはできない。

従つて原告の請求に応じなかつた被告旭川市監査委員両名の措置は、正当のものであると述べた。

理由

先ず本件訴の適法性について判断する。

一、本件の請求の趣旨の要点は、第一に被告旭川市監査委員両名が監査請求人たる原告になした通知を取消すとの判決を求め、第二に右両被告は、被告旭川市に対し本件土地の違法不当使用及び賃貸売渡等の拒否処分禁止に関する措置を講ずることを請求すべしとの判決を求めると言うにある。

二、しかして原告はその理由として地方自治法第二百四十三条の二を援用する。しかしながら同条は、普通地方公共団体の住民は、普通地方公共団体の長その他の職員に公金の違法若しくは不当な支出若しくは浪費その他同条の二第一項所定の行為があつた場合に、監査委員に対し監査を行い右行為の制限又は禁止に関する措置を講ずべきことを請求し、監査委員がこれに応ぜずもしくはこれに応じたるもその措置に不服ある時、又は監査委員より当該行為の制限又は禁止の請求を受けた当該地方公共団体の長がこれに応ぜず、もしくはこれに応じたるもその措置に不服なる時は、裁判所に対し当該職員の行為の制限若しくは禁止又は取消若しくは無効若しくは当該普通地方公共団体の損害の補てんに関する裁判を求め得べき旨規定したものであつて、監査を請求した普通地方公共団体の住民が裁判所に請求できるのは、当該職員の違法又は権限を超える当該行為の制限若しくは禁止又は取消若しくは無効等の裁判に限られている。しかして原告が本訴において請求しているものが、右各事項に該当しないことは明らかである。

三、右の如く地方自治法第二百四十三条の二の如き特別の定めに該当しない以上、本件訴の適法性は行政事件訴訟の一般原則に従つて判断さるべきであるが、原告の求めている監査委員の通知行為の取消は、右通知行為が所謂抗告訴訟の対象となる行政処分とはいえないから許されない。けだし抗告訴訟の対象となる行政処分というためには、少くとも、その処分により処分の相手方たる者の権利義務に直接変動を与える可能性のあるものでなければならないが、右通知行為は、これにより単に監査請求をなした住民に地方自治法第二百四十三条の二第四項の裁判を求め得る地位を与えるだけであり、住民個人の権利義務には直接関係のないものであるからである。

又被告旭川市監査委員両名が被告旭川市に対し本件土地の違法不当使用禁止等に関する措置を講ずることを請求すべき旨の請求につき考えるに、右請求は行政機関に対し行政上の行為をなすべきことを命ずる裁判を求めるものであるが、憲法の規定する三権分立の建前から裁判所としては、行政機関に対し、かような行政上の行為をなすべきことを命ずる裁判をなす権限を有しないから、かかる請求の訴は受理すべきものでない。

四、以上の如く原告の本件訴は不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊谷直之助 高橋喜久治 古沢博)

(目録省略)

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